守破離 SHUHARI シュハリ一、兵法書研究二、武術稀少書三、武術系古本四、ご注文・お問合せ五、当サイトについて

柳生石舟斎宗厳は、新陰流流祖上泉信綱より「一国一人」の印可皆伝を受けた新陰流正統二世であり、また、柳生氏中興の祖。宗厳の百首は数種あるといわれますが、これは宗厳七十三歳の時のものです。
※宗厳が生きた時代は、群雄割拠の戦国時代で戦が常に隣り合わせにあり、また剣術自体も各流派がやっと体裁をととのえ始めたばかりといえるものでした。現代の感覚では武士は全員なんらかの兵術を身につけていたように思えますが、実際には特別系統立った武術の稽古などしない環境で育って戦場にでていく武士もたくさんおり、中にはそれでも無敵の強さを発揮する者もいたようです。そういう者は結局度胸と生来の腕力で生き抜いていく強者で、わざわざ兵法などと勿体ぶって斬れない木刀やシナイを使って稽古することに懐疑的な視線を送っていたようです。この兵法百首のなかでは兵法を知る人と知らない人の区別をかなり意識して詠んであるようですが、時代背景的に「兵法」が武士の当然のたしなみではなかった事を考えると少しわかりやすいと思います。(兵法という言葉は新陰流で使う言葉ですが、狭義では剣の術技ともいえますが、広義では単に剣術だけではなく精神的な在り方も含めているようです。句の内容によって微妙に読み分けをする必要があるようです。)

 

 宗厳(石舟斎)  兵法百首

世をわたる わざのなきゆへ 兵法を かくれがとのみ たのむ身ぞうき
 [世を渡る わざの無き故 兵法を 隠れ家とのみ たのむ身ぞ憂き]

かくれがと たのむはよしや 兵法の あらそひごとは むよう成けり
 [隠れ家と たのむはよしや 兵法の 争いごとは 無用成りけり]
 [よしや=やむをえない]

兵法の かちをとりても 世のうみを わたりかねたる 石のふねかな
 ?[兵法の 舵(勝ち)をとりても 世の海を 渡りかねたる 石の舟かな]

兵法を かねてこちきとおもはずば あらそひゆへに たたかれやせん
 ?[兵法を かねて乞食と思わずば 争いゆえに たたかれやせん]
 [ たたくる=めちゃくちゃにされる]

しあひして うたれて恥の 兵法と 心にたへず くふうしてよし
 [仕合して 打たれて恥の 兵法と 心に絶えず 工夫して良し]

兵法は 能なきものの わざなれば かうぎやうけんくわの もとひ成けり
 [兵法は 能無き者の わざなれば 口業喧嘩の 元成りけり]

兵法の ならひはうとく きろきろと めくばりまでを するぞおかしき
 [兵法の 習いは疎く きょろきょろと 目配りまでを するぞおかしき]

まる太刀を けいこなくして 兵法の 調子の手きき ならじとぞおもふ
 [円太刀を 稽古なくして 兵法の 調子の手利き ならじとぞ思う]

兵法を しりたるよしの 手柄たて しらぬにおとる せうし成けり
 [兵法を 知りたるよしの 手柄立て 知らぬに劣る 笑止なりけり]

兵法は うかまぬ石の ふねなれど すきのみちには すてられもせず
 [兵法は 浮かまぬ石の 舟なれど 好きの道には 捨てられもせず]

二こしを さげたる人の 兵法を いらぬというぞ 心もとなき
 [二腰を さげたる人の 兵法を 要らぬというぞ 心許なき]
 [二腰=侍が腰におびる大小の二刀]

兵法を 心にかけぬ そのひとの かたなのよしあし ほり出しの用
 [兵法を 心にかけぬ その人の 刀の良し悪し 掘り出しの用]

きりあひは こころのてうし ある物を かまへによると いふぞはかなき
 [截り合いは 心の調子 ある物を 構えによると 云うぞはかなき]
 [はかなき=果無き=結実していない]

世にふしぎ 奇妙おほきぞ 能ならへ ならふてはちに ならぬへいほう
 ?[世に不思議 奇妙多きぞ 能く習え 習うて恥(罰)に ならぬ兵法]

太刀かたな それのみならず よけはづし 心にかけて きづかいをせよ
 [太刀 刀 それのみならず よけ外し 心にかけて 気遣いをせよ]

兵法の 極意はよろづ なにごとも しあん遠慮の よけはづし也
 [兵法の 極意は万 何事も 思案遠慮の よけ外しなり]
 [遠慮=遠い先々まで考えること]

兵法や こしのかたなも あひおなじ 朝夕いらで いることもあり
 [兵法や 腰の刀も 相同じ 朝夕いらで いることもあり]

へいほうは けいこたんれん つねにして いろにいださで かくしつつしめ
 [兵法は 稽古鍛錬 常にして 色に出さで 隠し慎め]

兵法を かつて心に かけずして いちごかたなの人足やせん
 ?[兵法を 勝って心にかけずして 一期刀の人足やせん]
 [一期=一生涯、人足=労働者、せん=せむ=する]

兵法を しらざる人の こしかたな ながきをたのむ よしやこと
 [兵法を 知らざる人の 腰刀 長きをたのむ よしやこと]
 [よしや=仕方がない]

兵法の いたれるうへの こころにも やりをぐそくの 第一とあり
 [兵法の 至れる上の 心にも 槍を具足の 第一とあり]
 [具足=所持する道具]

兵法の ならひはいち二 たいがひぞ あまりすきたる 事はならぬぞ
 [兵法の 習いは一二 たいがいぞ あまり過ぎたる 事はならぬぞ]
 [一二=ひとつふたつ・わずか、たいがい=ほどほどに]

たばかりと 矢とめかうおく 長具足 たぜひにぶぜひ 兵法のほか
 [謀りと 矢とめ剛臆 長具足 多勢に無勢 兵法のほか]
 [矢とめ=飛んでくる矢をとめること、剛臆=剛気と怯気、長具足=槍・薙刀などの長道具]

兵法の ならひのうへの こころにも かくすをひぢの だい一とする
 ?[兵法の 習いの上の 心にも 隠すを秘事の 第一とする]

兵法に 調子のありと ならひても あふてはづるる 心よくとへ
 ?[兵法に 調子の有りと 習いても おうて外るる 心よく問え]

兵法の あらそひ事も よくゆへと 心にこころの 師となりてしれ
 [兵法の 争い事も 欲ゆえと 心に心の 師となりて知れ]

へい法の 文字をおもへば なにがしの こころかけぬも おろかなりけり
 [兵法の 文字を思えば なにがしの 心かけぬも おろかなりけり]
 [おろか=疎か・愚か=中身が足りない・程度が劣る]

上手には 兵法のみか 六芸の けいこなくして きとくやはある
 [上手には 兵法のみか 六芸の 稽古なくして 奇特やわある]
 [六芸=中国周代に士が習うべきとされた六種の技芸、やわある=あるだろうか(いやない)]

へいほうの ならひそのおり いでざると かたるはをのが はぢとしらずや
 [兵法の 習いその折り 出ざると 語るは己が 恥と知らずや]

兵法の 極意に心 いたりなば かたなだうぐも およばざるもの
 [兵法の 極意に心 至りなば 刀道具も 及ばざるもの]

兵法の かまへさそくは とにもあれ かつはこころの つもり成けり
 [兵法の 構えさそくは とにもあれ 勝つは心の つもりなりけり]
 [さそく=早速=機に臨み素早く対応する、または早足=早い足さばき]

兵法は こころゆるさで 気をつかひ みみにたつなる ことばすごすな
 ?[兵法は 心許さで 気を遣い 耳に尋なる 言葉過ごすな]

へいほうは まづなにがしの やくにして 心にかけて ならひつつしめ
 ?[兵法は 先ずなにがしの 厄にして 心にかけて 習い慎め]

兵法の けいこに手刀 とる事は もしかなはざる おものようなり
 ?[兵法の 稽古に手刀 とる事は もしかなわざる 重の用なり]

無刀にて きはまるならば 兵法者 こしのかたなは むよう成けり
 [無刀にて きわまるならば 兵法者 腰の刀は 無用なりけり]

手刀をば きりてかひなし とられては いちご手なしの ふるや入なん
 ?[手刀をば 切りて甲斐なし とられては 一期手無しの ふるや入りなん]
 [いちご=一期=最期の覚悟?、ふる=触れる?]

無刀にて けいこたんれん 取えては わが兵法の くらゐをぞしる
 [無刀にて 稽古鍛錬 取りえては わが兵法の 位をぞ知る]

へいほうは きようによらず 其人の すける心の たしなむにあり
 ?[兵法は 器用によらず 其の人の すける心の たしなむにあり]
 [好ける心の嗜む=興味を持ち心をこめて励む? ]

てうぶくの 二字のこころを 兵法の ごくいとつねに くふうしてよし
 [調伏の 二字の心を 兵法の 極意と常に 工夫して良し]
 [調伏=(仏教語で)心身をととのえて、悪行を制する]

 

自是(これより)ト清十首

兵法の 奥よりおくの ならひこそ ただがうおくの ふたつ成けり
 [兵法の 奥より奥の 習いこそ ただ剛臆の 二つなりけり]

なぎなたの ひらめく影と かま鑓の かかるしあひは 見るも目ざまし
 [長刀の ひらめく影と かま鎗の かかる試合は 見るも目ざまし]

弁慶が うしわか殿を よきしうと たのみし事も 兵法のとく
 [弁慶が 牛若殿を 良き主と たのみし事も 兵法の徳]

兵法は こころのおくの 太刀なれば ときにしたがふ 寸尺ぞかし
 [兵法は 心の奥の 太刀なれば 時にしたがう 寸尺ぞかし]
 [寸尺=長さ、かし=意味を強める終助詞=〜よ]

弓やむま 兵法たのむ なにがしの こころのうちぞ ゆかしかりける
 [弓や馬 兵法たのむ 何某の 心のうちぞ ゆかしかりける]
 [ゆかし=知りたい]

あづさ弓 もとすえしらぬ 兵法者 そらうてこひて けかをまくるな
 ?[梓弓 本末知らぬ 兵法者 そらうてこいて けかをまくるな]

兵法の こころなくして さすかたな ものきれなりと たのみすくなし
 [兵法の 心無くして 差す刀 物切れなりど たのみ少なし]

万法を きりはらふべき 一心の つるぎもむねの 兵法ぞかし
 [万法を 切り払うべき 一心の 剣も胸の 兵法ぞかし]
 [かし=意味を強める終助詞=〜よ]

兵法の こころのおくを 伝ずば いんかをとりて 何かはせん
 [兵法の 心の奥を 伝えずば 印可をとりて いずれかはせん]

命とて おもきたからを 持人の 兵法をして 蔵にせよかし
 [命とて 重き宝を 持つ人の 兵法をして 蔵にせよかし]

身にかへて 名のため思ふ なにがしの 兵法すかぬ 人しやはある
 [身にかえて 名のため思う 何某の 兵法好かぬ 人しやはある]
 [人しやはある=人などいるだろうか]

兵法に さそく奇妙の かるわざは 弟子のおよばぬ ならひ成けり
 [兵法に 早速奇妙の 軽業は 弟子の及ばぬ 習いなりけり]
 [さそく=早速=機に臨み素早く対応する、奇妙=すぐれていること]

兵法に 余流をそしる 其人は ごくいいたらぬ ゆへとこそしれ
 [兵法に 余流をそしる 其の人は 極意至らぬ 故とこそ知れ]

兵法の 極意は五常の 義に有と こころのおくに 絶ずたしなめ
 [兵法の 極意は五常の 義に有りと 心の奥に 絶えずたしなめ]
 [五常=儒教の五つの道徳・一般には 仁・義・礼・智・信]

兵法を なげくはけなげ 中道に ぎりのこころの ふかきゆへなり
 [兵法を 嘆くは健気 中道に 義理の心の 深き故なり]
 [中道=中正な立場]

兵法は かくすを奥儀 極意とぞ しらぬがおもてに いだすこころは
 [兵法は 隠すを奥義 極意とぞ 知らぬが面に 出す心は]

兵法は しりてもしらぬ よしにして いる折々の 用にしたがへ
 [兵法は 知りても知らぬ よしにして いる折々の 用にしたがえ]
 [よし=そぶり]

兵法を しりたる顔の 色にいで にくきふりのみ する人ぞうき
 [兵法を 知りたる顔の 色に出で にくきふりのみ する人ぞ憂き]
 [にくき=不愛想な]

兵法を 知りたる人を うやまふは たしなみふかき こころ成けり
 [兵法を 知りたる人を 敬うは たしなみ深き 心なりけり]

兵法に すかざる人は わけしらで くゐなばこころ おろかなるゆへ
 ?[兵法に 好かざる人は わけ知らで 悔いなば心 おろかなるゆえ]
 [わけ=物事の道理、おろか=疎か・愚か=中身が足りない・不十分・程度が劣る]

兵法は 弟子の心を さぐりみて 極意おろかに つたえはしすな
 [兵法は 弟子の心を さぐりみて 極意おろかに伝えはしすな]
 [おろか=疎か=通り一遍]

兵法を 工夫のゆへか 無刀にて あらそひかくる 積りをぞしる
 [兵法を 工夫の故か 無刀にて 争いかくる 積もりをぞ知る]

兵法は かなはぬ折の 身のためと こころにかけて 稽古能せよ
 [兵法は かなわぬ折りの 身のためと 心にかけて 稽古能くせよ]

はんのうへ あだなる事の 勝負も まけて兵法に はらのたたずや
 [煩悩へ あだなる事の 勝ち負けも まけて兵法に 腹の立たずや]

なにがしか しらでかなはぬ 兵法を こころがけぬも おろか成けり
 [なにがしか 知らでかなわぬ 兵法を 心がけぬも おろかなりけり]
 [おろか=疎か・愚か=中身が足りない・不十分・程度が劣る]

名をおしみ 兵法なげく なにがしと ききしる人に 極意のこすな
 ?[名を惜しみ 兵法嘆く なにがしと 聞き知る人に 極意残すな]

よきのふと おもふ心の おろかゆへ 兵法くらゐの あらそひぞする
 ?[良き能と 思う心の 愚かゆえ 兵法 位の 争いぞする]

兵法は ふかき淵瀬の うす氷 わたるこころの ならひ成けり
 [兵法は 深き淵瀬の 薄氷 渡る心の 習いなりけり]

兵法の 無刀となること 石のふね うかまぬわざと 人やみるらん
 [兵法の 無刀となること 石の舟 浮かまぬ業と 人や見るらん]

しばりもの きる程やすき 兵法と いふはあだなる 人のことのは
 [縛り者 截るほど易き 兵法と 云うは徒なる 人の言の葉]

しばりもの きるにおとらぬ 無刀さへ 十に五つは とられぬるかな
 [縛り者 截るに劣らぬ 無刀さえ 十に五つは とられぬるかな]

無刀とる つもり位を 稽古して 小太刀のこころ がんみしてしれ
 [無刀とる 積もり位を 稽古して 小太刀の心 玩味して知れ]

手刀をば 所望とあらば 取てみよ きられてもよし くるしからざる
 [手刀をば 所望とあらば 取りてみよ 截られてもよし 苦しからざる]

無刀さへ きりかねたらん 其人の かたなにあひて いかがしてまし
 [無刀さえ きりかねたらん その人の 刀にあいて いかがしてまし]
 [〜まし=〜たらよいだろうか]

兵法の 極意に心 いたりなば いちごみさほの 命ならまし
 [兵法の 極意に心 至りなば 一期操の 命ならまし]
 [一期=一生涯、操=平気でいられる、ならまし=〜だろう]

身命の まもりとつかふ 兵法の はつとを人の おこなはぬぞうき
 [身命の 護りと遣う 兵法の 法度を人の 行わぬぞ憂き]
 [法度=掟・決まり]

つはものの 法と書たる 兵法を いらぬといふも 無念ならずや
 [つわものの 法と書きたる 兵法を 要らぬと云うも 無念ならずや]
 [無念=無我の境地、無念ならずや=無念ではないのか(いや無念である)]

兵法の 師となるならば 弟子にまづ はつとををしへ 心よくみよ
 [兵法の 師となるならば 弟子に先ず 法度を教え 心よく見よ]
 [法度=掟・決まり]

兵法に ふしぎ奇妙は おほき世を はれのみと思ふ 智恵ぞはかなき
 ?[兵法に 不思議 奇妙は 多き世を われのみと思う 智恵ぞはかなき]

兵法の ようをば内に つつしみて 礼儀の 二つに 心みだすな
 [兵法の 用をば内に 慎みて 礼儀の 二つに 心乱すな]

新陰を 余流となすと 兵法に きめうのあらば 習たづねん
 [新陰を 余流となすと 兵法に 奇妙のあらば 習い尋ねん]

兵法に 積くらゐを ならひとへ まほうにこころ かけな行末
 [兵法に 積もり位を 習い問え 魔法に心 かけな行く末]
 [かけな=かけるな]

兵法は たんれんかるわざ 其外に 奇妙のこころ 弟子にならばや
 ?[兵法は 鍛錬軽業 その外に 奇妙のこころ 弟子にならばや]
 [弟子にならばや=弟子にならなければ?]

兵法は 利かたと聞ば すこしにも ききしる徳を 何にたとへん
 [兵法は 利方と聞かば 少しにも 聞き知る徳を 何にたとえん]
 [利方=利のある方法、便利なやりかた]

我太刀に 我と非を打 工夫して つもり位の こころよくしれ
 [我が太刀に 我れと非を打ち 工夫して 積もり位の 心よく知れ]

ぎり情 ふかき弟子にと 兵法の 極意をおしみ ひじやはたさん
 [義理情け 深き弟子にと 兵法の 極意をおしみ 秘事や果たさん]

兵法を ならひ其身のふりかかり こころ言葉に 気遣をせよ
 [兵法を 習い其の身のふりかかり 心言葉に 気遣いをせよ]

たびにして 勝と計の 兵法は いづれも地うち とたん成けり
 ?[度にして 勝つとばかりの 兵法は いずれも地うち とたんなりけり]
 [とたん=土壇=処刑場?]

人をきらん 心はしばし 兵法に われが討たれぬ ならひまでして
 [人を斬らん 心はしばし 兵法に 我れが討たれぬ 習いまでして]

兵法を へたぞとあらば あらそはで よにしんかうの 人にをしへよ
 ?[兵法を 下手ぞとあらば 争わで 世に新興の 人に教えよ]

いのち身を すなをと習 兵法は しらはのしあひ さたぞことなる
 [命身を 素直と習う 兵法は 白刃の試合 沙汰ぞ異なる]

おんりやうや けうけんしやうは 新陰の 兵法のはつと 極意成けり
 ?[温良や 恭倹譲は 新陰の 兵法の法度 極意なりけり]
 [温良=おだやかで素直、恭倹譲=おだやかでうやうやしく、ひかえめなこと・孔子が人に接する様子、法度=掟、決まり]

兵法は かくしつつしむ 心より まさる極意は あらじとぞ思ふ
 [兵法は 隠し慎む 心より 勝る極意は あらじとぞ思う]

つつしまず 兵法面に 出しなば 人ににくまれ はぢやかくらん
 [慎まず 兵法おもてに 出だしなば 人に憎まれ 恥やかくらん]

兵法の 利かたそれぞれ かぞふれば おほいなるかな けんこんの徳
 [兵法の 利方それぞれ 数うれば 大いなるかな 乾坤の徳]
 [利方=利のある方法、乾坤=天と地・陰陽]

世をたもち 国のまもりと 成人の こころに兵法 つかはぬはなし
 [世を保ち 国のまもりと なる人の 心に兵法 遣わぬはなし]

兵法の あらそひ位は 小太刀にて たがひの弟子を ぜひしくらべよ
 [兵法の 争い位は 小太刀にて 互いの弟子を 是非し比べよ]

兵法の 弟子をしたてぬ 師にあらば 花実をかねぬ 上手成けり
 [兵法の 弟子を仕立てぬ 師にあらば 花実をかねぬ 上手なりけり]

兵法師 仁に心の なかりせば くらゐ上手の かひはあらじな
 [兵法師 仁に心の なかりせば 位上手の 甲斐はあらじな]

兵法の 極意に仁・義・礼・智・信 たへずたしなみ 機遣をせよ
 [兵法の 極意に仁・義・礼・智・信 絶えずたしなみ 気遣いをせよ ]

つなづねに 五常の心 なき人に 家法の兵法 印可ゆるすな
 [常々に 五常の心 無き人に 家法の兵法 印可ゆるすな]

兵法の 上手はだうり ただしくて 目つけさぞさぞ なりやすきやう
 [兵法の 上手は道理 正しくて 目付けさぞさぞ なりやすきよう]

うかまざる 兵法ゆへに 石の舟 くちぬうき名や すえにのこさん
 [浮かまざる 兵法故に 石の舟 朽ちぬうき名や 末に残さん]

 

ある夕暮のつれづれに、大和国躰其歴々たづぬるに、年寄死去し、或はいづくとも行かたしらずなり。其内之者ども、さすが手柄よう人とある者どもも、かひなく成はて、まことにうへ(飢え)にのぞみ、乞食などの風情になるまま、宗厳も入道して法名をそうごん、斎名をば石舟斎と云、六十余、いくほどなき露命とありながら、浮世をわたりかね、年にも似合わざる兵法をつかひ、朝夕を且々(ただただ)つづけ侍う事もほい(本意)ならず。しかはあれど、道をたて兵法の師と号し修行する輩、其流稽古をもきはめず、手柄だての口上にほこり(誇り)、仕合をし、うたれ、一流の師に科(とが)をきず、宗厳年月笑止に存ずるのみ、詞(ことば)もつづかざるかたはらいたき(片腹痛き)兵法百首、狂哥をつらね侍る也。第一、石舟斎子共并極意を懸御目、弟子衆は此狂哥を不被相忘、御分別御工夫尤候たるべく候也。
言のはの 露もつづかぬ 口すさび
 残らん跡の 名のはぢぞうき

   竹田七郎殿 参
             柳生宗厳
     慶長六年二月吉日


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