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書写机其ニへ-白井亨−兵法未知志留辺拾遺

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書写机

書写机では、現在入力進行中の書類を、逐次アップしていきます。
現在、柳生十兵衛三厳の代表作といえる大著「月之抄」を進行中です。

原文をこの色で表記します。

月之抄 2/7

習之目録之事

 目付三之事 二星(にせい・にしょう) 嶺谷(みねたに・れいこく) 遠山(とおやま)

 二星之目付之事

 老父(父宗矩)の云わく、敵の拳・両の腕なり。この働きを得る事肝要なり。
 亡父(祖父宗厳)の目録には二星 不断の目付、左右の拳と書せるなり。
 私云、二星付きたり(には)、色と云う心持ちあり。これは二星はあて処なり。二星の動きを色と(云う)なり。二星を見ん(見よう)と思う心より色々心付く(感じる・気付く)心第一なり。
重々の心持ち、至極までこれを用いるなり。
また云わく、二つの星という心持ちも、二つを一つに見る心持ち、二つはひとつ也。
また云わく、目付け八寸(約24センチ)の心持ちと云う事あり。是 太刀の柄八寸の動きを心懸ければ、二星(の)色もその内にあるという心を以てなり。
この二星の習い第一なり。これより種々の心持ち有るにより、初而(初めにこの)心を知ると云々。
 老父 かしら書の目録に 二星付きたり(とは)不断用いると書くもあり。
また云わく、二星 敵双手にて持つ時よしと書せる目録もあり。

 二星之目付之事
 老父ノ云ク、敵ノこふし両のウテ也。此はたらきをえる事肝要也。
 亡父ノ目録ニハ二星、不断の目付、左右ノこふしと書セル也。
 私云、二星付り、色と云心持アリ。是ハ、二星はアテ処ナリ。二星ノウコキヲ色ト也。二星ヲミント思ふ心より、色々心付ク心第一ナリ。重々ノ心持、至極まて是を用ルナリ。亦云、二つノほしと云心持も、二つヲ一つニミル心持、二つハひとつ也。亦云、目付八寸ノ心持ト云事アリ。是ト太刀のつか八寸のうこきヲ心懸レハ、二星色モ其内にあると云心ヲ以ナリ。此二星の習第一也。是より種々の心持有ニより、初而心ヲ知ト云々。
 老父かしら書ノ目録ニ二星付タリ不断用ルト書モアリ。亦云、二星敵モロテにて持時よしと書セル目録もあり。

 

 嶺谷之目付之事

 老父(父宗矩)云わく、右の腕の屈み目を嶺と云い、左を谷と云う。この伸べ縮めに心を付け、我が太刀先をその方へ向くれば、地太刀にならぬ心持ち也。二星より嶺谷までの間の動きを根本の目付けと定むるなり。
 亡父(祖父宗厳)の目録には嶺[身の懸かり右の肘] 谷[身の懸かり、足踏み、左の肘]この如く書するもあり。
また云わく、嶺谷付きたり(とは)相太刀にならざる事とばかり書す目録も有り。
 老父(父宗矩)ノ目録に 嶺谷、同じく片手太刀、いずれも地太刀にならざる目付けなりと書すも有り。

 嶺谷之目付之事
 老父云、右之ウデノカゝミメヲ嶺ト云、左ヲ谷ト云。此のへちゞめニ心ヲ付、我太刀先ヲ其方へむくれハ、地太刀にならぬ心持也。二星より嶺谷マテノ間ノウコキヲ根本の目付ト定ルナリ。
 亡父の目録ニハ嶺(身ノカゝリ右ノヒジ)谷(身ノカカリ、アシブミ、左ノヒジ)如此書ルモアリ。又云、嶺谷付り相太刀ニならさる事トはかり書ス目録モアリ。
 老父ノ目録ニ嶺谷おなしく片手太刀、何も地太刀ニならさる目付也ト書モアリ。

 

 遠山之目付之事

 老父(父宗矩)云わく、我が両の肩先打ち取り、押し相などになるときこの習いを用う。敵の太刀先、我右の肩先へ来る時は敵の右へ外すべし。左へ来る時はすぐに上より押し落とし勝つなり。我が太刀先 何時も嶺の目付け、敵の胸に心を付けて打ち込むべし。
また云わく、組もの打合いの時、敵味方太刀先の遣い様に身のひらき肝要なりと云々。
また云わく、かしら書の録(目録)に遠山付きたり(とは)組ものに成る時の心持ちとも有り。
また云わく、我方よりは、敵の両の肩の間、胸へ太刀先をなすべしとも有り。
また云わく、捕手・居合、何時も身際にしては、この心持ち専なり。これより身際の心持ち色に出るなり。
 亡父(祖父宗厳)の録には遠山之事、切組の時、双の肩とばかり書する有り。

 遠山之目付之事
 老父云、我両ノカタサキ打取、おし相なとに成とき、此習ヲ用、敵ノ太刀サキ、我右ノカタサキヘクル時ハ、敵ノ右へはずすへし。左へくる時ハすくにうへよりおしおとし勝なり。我太刀サキ何時も、嶺の目付敵ノ胸に心ヲ付テ打込へし。亦云、クミモノ打合ノ時、敵味方太刀サキノ遣様に身ノひらき肝要也ト云々。亦云、かしら書ノ録ニ遠山付タリくみものに成時之心持トモアリ。亦云、我方よりハ、敵ノ両ノかたの間、むねへ太刀サキヲナスヘシトモ有。亦云、トリテ・イアイ、何時も身ギハニシテハ、此心持専也。是より身ギハノ心持色ニ出ル也。
 亡父ノ録ニハ遠山之事、切クミの時、双ノカタトハカリ書ルアリ

 

 五箇之身位之事

 老父(父宗矩)云わく、
  身をひとえに為すべき事、
  敵の拳へ、我が肩とくらぶる事、
  我が拳をたて(楯)にすベき事、
  左の肱(ひじ)を伸ばすべき事、
  前の膝に身をもたせ、後の足を伸ばす事、
これは其の座より後へ引のく者を追い掛け 打つ時よし。

 亡父(祖父宗厳)の録、
   第一、身を一重に為すべき事、
   第二、敵の拳我が肩にくらぶる事、
   第三、身を沈にして我拳を下げざる事、
   第四、身をかゞり(かがめ)、サキ(前)の膝に身をもたせ、後のエビラをヒシク事、
   第五、我が左の肱(ひじ)をかがめざる事、云々。
亦云わく、構えはいつも相構えの事(相手と同じ構え)と書すも有。

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※追記:五箇の身位のいろいろを掲載します。
 とくに宗矩の身位では、意図的にか「身を沈に」が省かれています。
 甲冑から素肌への剣法の変化に対応したものかもしれません。

 ・宗厳が天正八年に三好左衛門尉へ与えた目録より抜粋
   位五大事
    第一 敵拳ニ吾肩可同事(敵の拳に我が肩同じに成るべき事)
    第二 吾肩成気一重身事(我が肩一重身になるべき事)
    第三 こふし(拳)に身つれ、拳をさけさる(下げざる)事
    第四  身のかゝり先なるひさ(膝)に身をもたせさけさる(下げざる)事
    第五 我か左のひち(肱)をかゝむ(屈む)事不有之事(有るべからざる事)

 ・宗厳が慶長六年に金春七郎に与えた「新陰流兵法目録事」より抜粋
   身懸五箇事
    第一 身を一重になすへき事
    第二 敵のこふしわかかたにくらふへき事(敵の拳我が肩にくらぶべき事)
    第三 身を沈にしてわかこふし(我が拳)をさけさること
    第四 身をかゝりさきのひさ(前の膝)に身をもたせ、跡のゑひらをひらく事
    第五 吾ひたりのひちをかしめさる事(我が左の肱をかがめさる事)

 ・宗厳が慶長八年に利厳(正統三世・尾張柳生の道祖)に与えた「新陰流截相口伝書事」より抜粋
   身懸五箇之大事
    第一 身を一重に可成事
    第二 敵のこふし吾肩にくらふへき事
    第三 身を沈にして吾拳を楯にしてさけさる事
    第四 身をかゝりさきの膝に身もたせ跡のえびらをひらく事
    第五 左のひぢをかゝめさる事

 ・宗厳が慶長九年に徳斎(宗厳の三男・僧侶?)に与えた「新陰流截相大事」より抜粋
   身懸五箇
    第一 身を一重になすへき事
    第二 敵のこふしわかかたにくらふる事
    第三 身を沈にして、わかこふしをさけさる事
    第四 身をかかりさきのひさに身をもたせ、跡のゑひらを開事
    第五 わかひたりのひちをかゝめさる事

 ・宗矩が元和四年に鍋島三平に与えた極意書の「見之巻」より抜粋
   五ヶ之身之位之事
    一 身を一重ニなすへき事
    一 敵のこふしを我肩にくらふる事
    一 我こふしを楯につく事
    一 左の臂をのはす事
    一 さきの膝に身をもたせて跡の膝をのはす事

 ・宗矩の寛永九年の極意書「新陰流兵法之書(進履橋)」より抜粋
    一 身を一重になすへき事
    一 敵の拳を我肩にくらふへき事
    一 我拳を楯につくへき事
    一 左の肱を延すへき事
    一 さきの膝に身をもたせ、あとの膝をのはすへき事

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 五箇之身位之事
 老父云、身をヒトエニナスへき事、敵のこぶしへ、我かかたとくらぶる事、我がコブシヲタテニスベき事、左のひしをのはすべき事、前のひざに身ヲもたセ、後の足をのばす事、是は其座より後へ引のく者ヲ追掛ヲ打時よし。
 亡父の録、第一、身ヲ一重ニなすへき事、第二、敵のコブシ我カタニくらふる事、第三、身を沈ニシテ我こぶしヲさげざる事、第四、身をかゞり、サキノヒザニ身ヲもたせ、後のエビラヲヒシク事、第五、我左のひぢをかゝめさる事、云々。亦云、構ハいつも相構ノ事ト書スモ有。


 思無邪之身之事

 歌に 世中の道をならはじすぐにゆけ 入江小嶋に船よせずとも

 老父(父宗矩)云わく、邪なからんことを思え、身をすぐ(直ぐ)にゆがまざる(歪まざる)を用い 足の踏みよう八文字・一文字この二つなり。
敵の方へ身なりすぐ(直ぐ)にせんためなり。 鑓・長刀・太刀諸道具ともにこの心同じ事なり。身の位思わずして道具にかかわれば、身を忘るるものなり。身をさへ知れば、いづれも諸道具を用に立つものなり。身のほどを知りて道具をもてば其のままかかりても当たらぬものなり。
また云、思無邪は五箇之身の真の位なりと云々、身の直ぐみちの心持ちにて、ものを持てばそのままかかりても当たらぬなり。道具我が身の楯となる心持ちなり。構をせんと思はば、何時も上中下ともに相構を用いる、是活人剣の心持也。
また云、思無邪すぐなる心なり。諸事、万たんともにかくのごとし、と書も有り。

 思無邪之身之事
 歌に 世中の道をならはじすぐにゆけ 入江小嶋に船よせずとも
 老父云、よこしまなからんことを思へ、身をすくにゆかまさるお用足の踏みヨウ八文字・一文字此二つナリ。敵の方へ身なりすくにセンタメナリ。 鑓・長刀・太刀諸道具トモに此心同事也。身ノ位おもはすして道具にかゝはれは、身ヲわするゝモノ也。身ヲサヘ知レハ、いつれも諸道具ヲ用に立モノ也。身のほとを知りて道具ヲもては其のまゝかゝりても当たらぬものなり。亦云、思無邪ハ五箇之身ノ真ノ位也ト云々、身之すくみちの心持にて、物をモテハ其まゝかゝりてもアタラヌナリ。道具我身ノたてとなる心持ちナリ。構をセント思ハバ、何時も上中下トモニ相構を用ル、是活人剣ノ心持也。亦云、思無邪すくなる心ナリ。諸事、万タントモニかくのことし、ト書モ有。

 

 三見之事

 老父云、太刀先三つ見よう有り。構をみるなり。敵の太刀先前にあるか、後にあるか、動か、三つを見分ける心持なり。三つをみわけて種々の仕掛もあるにより これを専とするなり。三つをみるにより三見なり。
亡父の目録にはミヨウ(三様)なり。太刀先、こぶし、身なりと書せるあり。また云、敵の心ざしをみるよりも、三つを考えべし。動・懸・待と心得べし。動はすわらぬ心をおもうべし。

 三見之事
 老父云、太刀サキ三つ見ヤウアリ。構ヲミル也。敵ノ太刀サキ前ニアルカ、後ニアルカ、動か、三つヲ見分ル心持也。三つヲみわけて種々の仕掛アルニヨリ是を専トスルナリ。三つをみるにより三見ナリ。
 亡父之目録ニハミヨウ也。太刀サキ、こふし、身也ト書セルアリ。亦云、敵の心さしヲミるよりも、三つをかんかへへし。動・懸・待ト心得へし。動ハすはらぬ心をおもふへし。

 二見之事

 老父云、敵の懸待二つをみる事を云うなり。また云、総別、仕掛けざる以前の心持専なり。立ちあい時 まず三見と二見と心得べし。また云、かしら書の目録に、敵の構を二つに見ること、付きたり、太刀先前にあるか、後にあるかと見分けるべしと書すもあり。

 二見之事
 老父云、敵之懸待二つをみる事を云也。亦云、惣別、仕かけさる以前の心持専也。立相時まつ三見ト二見ト可心得。また云、かしら書の目録ニ、敵の構ヲ二つに見ル事、付タリ、太刀サキ前ニアルカ、後ニアルカと可見分ト書スモアリ。

 三箇之事

 老父云、敵の太刀先向き様、三見とみて、その三見に仕掛、三箇なりと云々。また云、右の三つに、仕掛けられ付きかけ、相構にて打つことを三箇と云う。鑓同前、上段、中段、いずれも同じ事といわれし事もあり。また云、太刀の構の事、これとせいがん(晴眼)なり。これに越す事なし。他流にこれを用いるもあれども、遣い様の心持に相違あるものなり。鑓・長太刀同じ事なるものなり。構には上段・中段・下段、鑓先も三つなり。この外はならざるなり。この三つのかかりは相構よし。総別太刀、長太刀いずれにても、構を用いるときは、相構よし。相鑓の時は、上段には中段、下段には上段、中段には下段、この心得を用うべし。
また云、三箇三つの仕掛、敵の太刀先、向にあれば付けよ。後にあらば一拍子なり。出るところなり。拍子を持って動くならば、その動きの拍子を受け、かけ、上げ下げ二つに乗りて、勝心持思うべし。三見とみるにより、三箇の仕掛あるなり。

 亡父の録に三箇付きたり、マルズシノ事、その道具を寒風体と書せるあり。また云、敵の太刀先我が方へ向かはば付きて打つべき事、敵の構太刀働きあらば拍子に乗りて打つべき事、敵の構、身を離れて太刀先後へならば、一拍子に勝つべきなりとも書す。

 三箇之事
 老父云、敵ノ太刀サキむきよふ、三見とみて、其三見ニ仕掛、三箇也ト云々。亦云、右之三つニ、仕掛ケられ付かけ、相構にて打事ヲ三箇と云。鑓同前、上段、中段、何も同事也といはれし事モアリ。亦云、太刀之構之事、これトせいかん也。是にコス事なし。他流に是を用ルモあれとも、遣様の心持に相違アルモノ也。鑓・長太刀同事なるもの也。構ニハ上段・中段・下段、鑓サキモ三つなり。此外はならさる也。此三つのかかりハ相構よし。惣別太刀、長太刀いつれにても、構ヲ用ル時ハ、相構よし。相鑓の時ハ、上段ニハ中段、下段ニハ上段、中段ニハ下段、此心得を可用。亦云、三箇三つの仕掛、敵の太刀サキ、向にあれは、付ヨ。後ニアラハ一拍子也。出る処也。拍子ヲ持テ動クナラハ、其ノ動キノ拍子ヲうけ、かけ、アゲサゲ二つに乗テ、勝心持ヲ思うへし。三見とみるにより、三箇之仕掛アル也。
 亡父ノ録ニ三箇付たり、マルズシノ事、其道具を寒風体と書セルアリ。亦云、敵ノ太刀サキ我方へ向はば、付て打へき事、敵の構太刀ハタラキアラハ、拍子ニ乗テ打ヘキ事、敵ノ構、身ヲハナレテ太刀サキ後へナラハ、一拍子ニ可勝也トモ書ス。

 三拍子之事

 老父云、勝つところの拍子は、越す拍子、合わする拍子、付くる拍子、この三つなり。然るところこの三つならではこれ無し。この三つの外るれば相太刀なり。また云、あう拍子、付る拍子、越す拍子とも書せる亡父の目録あり。
 老父云、付くる拍子のこと、乗る心持あり。あたる拍子の事、付きたり あう心持ありと書すもあり。また云、三拍子の三つは、我が身へあたらざるところにては越す拍子の心持よし。あたるあたらぬという境にて付くる拍子なり。心を付くるなり。逢う拍子は、付くる拍子付けて遣うべし。打するも、逢う拍子と云うなり ともあり。
色に就いて色に随う事 付きたり能く染むと云心持あり
父云、待にして打ち出すはたらきを見て構えている者にこの心持ち専なり。先に三寸へ切り掛け、色々の仕掛け、切り掛けを色と云、三寸にて敵の色つかざるものには、拳のあたりへ深く色を掛けて見べし。色に就かずということ無し。就けばその色に随いて勝つなり。 右へ勝てば左へ仕掛け、左を仕掛て右を勝つ、下を仕掛て上を勝ち、上を仕掛て下を勝つ。色々のはたらきを仕掛て、それに随いて勝つを云う。表裏の元なり。
 亡父云わく、敵の太刀、侍にしてあるに、拍子を分別して、ヤツと声をかけて、其色の見て、色に随いて勝つなりと書すも有り。
 父云わく、敵表裏に付け、切出すを能くうけて、引出し、それに随わずして勝つべし。構えは三十余りならでは五体にならざるものなり。我が手立て表裏をはたらかす心持ち専なり。
またいう、色に就くとは、表裏、仕掛け、切掛け、はたらき掛けなり。是に敵の心うつるところをもって、色に就くなりというなり。色に就き、色に就くるなどという心持ちあり。色に就くるというは、我が色に敵を就くるなり。色に就けば、就けるなり、声を掛けても、一巡りくるりと巡りても同じ事の心持ちなり。色に就きは、はや就きたるなり。色に随うというは、敵色々つき、切出す色に随うべきなり。随わずして勝つというは、敵を我が色に就けて、敵切出す色を能くうけてその色に随いて勝つところは、随わざるの心なり。
しかれば、色に就き色に随う事、付きたり能くそむという心持ちありと目録に書すなり。染むは色というにより、染むとなり。能く心を色に染めよとなり。心持ちに面白き感あり。またいう、色に付き色に随う習いは、敵切り掛けば、則ち活人劔にて勝ち、動かざるものは味方の三寸へ切り掛けて随うべし。仕掛けにても動かざるはそのまま勝つ心持ちなりとも書す。またいう、色に付き色に随う事、太刀の構え、三十余り、いつれも序の心持ちなり。序を截りかけて随うべし。小太刀一尺五寸のはづし、三十余りの構えに付きて、それぞれに外す心持ちもありと書する有り。

 三拍子之事

 老父云、勝処ノ拍子ハ、越ス拍子、合ル拍子、付ル拍子、此三つナリ。然処此三つならてハ此無。この三つのはするれハ相太刀也。亦云、あふ拍子、付ル拍子、越ス拍子トモ書セル亡父ノ目録アリ。
 老父云、付拍子ノ事、乗心持アリ。あたる拍子之事、付タリあふ心持アリト書モアリ。亦云、三拍子ノ三つハ、我身へあたらさる処にてハ越拍子ノ心持よし。あたるあたらぬと云サカイニテ付ル拍子也。心ヲ付ル也。逢拍子ハ、付ル拍子付テ遣へし。打スルモ、逢拍子ト云ナリトモアリ。
色就色随事 付リ能クソム云心持アリ
父云、待ニシテ打出スはたらきヲミて構テ居ル者ニ此心持専也。先ニ三寸へ切掛、色々ノ仕掛、きりかけヲ色ト云、三寸にて敵の色つかざるものには、こふしのあたりへふかく色を掛けてミへし。色ニツカスト云事なし。ツケハ其色ニ随テ勝也。 右ヘカテハ左ヘシカケ、左ヘ仕掛右ヲ勝、下ヲ仕掛テ上ヲ勝、上ヲ仕掛テ下ヲ勝。色々ノはたらきヲ仕掛テ、それに随テ勝ヲ云。表裏ノモト也。
 亡父云、敵ノ太刀、侍にしてあるに、拍子ヲ分別して、ヤツト声ヲカケテ、其色のミて、色ニ随テ勝也ト書モ有。
 父云、敵表裏ニ付ケ、切出スヲ能ウケテ、引出し、夫に随はすして勝へし。構ハ三拾余ならては五体にならさるもの也。我テダテ表裏ヲハタラカス心持専也。亦云、就レ色とは、表裏、仕掛、切掛、ハタラキ掛ナリ。是に敵の心うつる処ヲ以、就レ色也と云ナリ。色ニツキ、色ニツクルなとと云心持アリ。色ニツクルト云ハ、我色ニ敵ヲツクル也。色ニツケハ、ツケ也、声ヲ掛ても、ひとめくりくるりとめくりても同事の心持也。色ニツキハ、はやツキタルナリ。随レ色ト云ハ、敵色々ツキ、切出ス色ニ可レ随也。不レ随シテ勝ト云ハ、敵ヲ我色ニツケテ、敵切出ス色ヲ能ウケテ其随レ色テ勝処ハ、不レ随ノ心ナリ。然間、就レ色随レ色事、付り能ソムト云心持アリト目録ニ書ス也。ソムハ色ト云ニヨリ、ソムト也。能心ヲ色ニソメヨトナリ。心持に面白キ感アリ。亦云、色付色随習ハ、敵切掛ハ、則活人劔ニテ勝、動カサルモノハ味方ノ三寸へ切懸テ可レ随。仕掛ニテモ動カサルハ其まま勝心持なりとも書ス。亦云、色付色随事、太刀ノ構、三拾余、いつれも序ノ心持也。序ヲ截かけて可レ随し。小太刀一尺五寸之はづし、三拾余ノ構ニ付テ、夫々にはつす心持モアリト書ル有。


 敵味方両三寸之事
 老父云、敵之太刀サキ三寸ヲ、味方ノ三寸ト云。敵ノこふし三寸前へを敵の三寸ト云。仕掛ニハ味方ノ三寸へ付、打時ハ敵の三寸ヲ打へし。当流ニハふかく勝事ヲキラフがユヘナリ。アサク勝テ、このめをヨクセンタメ也。
 亡父ノ録ニ、拍子乗ル時ハ、はばきもと三寸ヲ目付テ打也。拍子ヲトル時ハ、キツサキ三寸、十文字とカケ取ナリ。夫ヲ味方ト云ト書ス。亦云、敵の三寸、味方之三寸ヲ我太刀サキ三寸ニテ打時モ、付ル時モ、ふかからず付モセヨ、切モセヨトモ書ス。


 二目遣之事
 父云、敵の太刀色なきといへとも、ふかふか仕掛時ハ敵の目ツカツト云事ナシ。目之付処ヘクルモノナリ。太刀ニツクカ、我ニふしをミるか、夫に心ヲ付ス、ウカリトシテ居ルものアリ。其様子ヲミ、夫に随イ可レ勝也。
 亡父ノ録ニ、二目遣、付リ太刀こひの事、表裏ヲ掛、敵のかををみる也。敵の目付心ヲミる也ト書ス。亦云、我カ一ツの仕掛、取掛ニテ、敵の心ヲ見よや、二目遣フ心は、我も一処ヲシトメサル心持肝要也。亦云、大曲を仕掛ミル心持也トモ書ス。


 大曲之事
 老父云、右之二目遣ヲ能々ミて、敵ノスク所あるへし。則すく所ヲ其まま出し、敵にうたせて勝ヲ曲ト云ナリ。
 亡父ノ録ニ待曲之事、付タリ、活人劔ノ分別可レ在レ之也。目付処一段ト大事也。我太刀ハもとの処へかへる也ト書ス。亦云、構ハ活人劔、敵うち出し候様に仕懸、夫を則持懸テ打へし。持ツ所待なり。打処はもとの処へかへるへし。二目遣ミへさる事もあれとも、我方より敵の心付ヲ、あてかひて仕懸可レ用。亦云、待ヲミせかけて、有を可レ用。我方よりの仕懸待也。待ヲ仕懸よと也。
 父云、動カサル以前ヲうくるによつて待曲ナリト書セル。


 位分キ之曲之事
 〔注〕東海寺本には「位分之待曲之事」とあり。
 父云、是は大曲ヲ楽ニ知り相テ、位ヲ持あひ、つよク相時、一拍子くつろけて、位ヲワカツテ敵ノ気ニのらセテ勝心持也。シツカナルおりふし、はたと物音なとしたりし時の心あるへし。亡父ノ録ニハ理りなし。


 位ヲ盗ト云事
父云、身は敵仕掛の心ヲあましたる心もち也。待ノ内ニて盗心也。


 位ヲ返スト云事
 父云、是は、敵の仕懸の心出ルヲこちへ取ル也。とらるれハ、出ル心ヤムナリ。所作初也。心ヲ取る心持ヲ我仕掛にすへきためなり。

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